外食ランチ、たったこれだけの自信がない、ぐったりしているから

昼休みに自宅へ帰る、パンを半分だけ牛乳で流し込んでから、ベットに横になる。
30分だけ休息してから、鉛になった身体を引きずるようにして、やっと職場へ戻った。
職場に戻ることは出来たけど、仕事に戻ることの自信は、完全に消滅していた。

7月17日(火)14:40  職場と自宅の中間点にある病院へ、自転車に乗って到着した。
午後の診察は3時から、待合室には数人程度の患者さんがいる。
そんなに待たなくても診察してもらえそうだ、そんな些細なことに安堵している。
病院の待合室、テレビは国会中継、ラックには数冊の週刊誌が置いてある。

いつものように、ボクはカバンから文庫本を取り出す、いつもの戦争本である。
本にカバーを付けない主義なので、回りの人に、何の本なのか、バレてしまう。
本の内容が他人に分かることなんか、ちっとも気にしないので、一向にかまわない。
しかし考えたら、戦争本が、高齢の患者さんの目に入るのは、好ましくないことだ。
ボクは、本を膝の上に置いて、首を真下に曲げてから、読書を始めていた。

病院内での読書は、時間を有効利用したい、という通常の理由だけではなく
むしろ、もっと大きくて、確かな、真実の理由
が存在している。
それは、これから訪れる診察のことを、アレコレと考えたくないのである。
診察の内容を想像したところで、不安に包まれるだけであり、いいことは何1つない。
考えたくないことを考えないために、まったく違うことを考える、これが待合室の読書。

病院での読書は、有意義だとは思うけれど、しかしながら、やや心もとない。
読んでいる文章への読解力、集中力は、通常の読書の30% しかない。
携帯を見る、午後3時25分になった、診察室から、まだ僕の名前が呼ばれていない。
おかしいなぁ、どうみても診察券を出している順番通りじゃないような気がしてきた。
すぐに呼ばれないこと、順番を変えること、何らかの意味とか、原因があるのだろうか。
血液検査の数値とか、何か特別な、深刻な説明を要するので、それで、ボクの順番を
後回しにしている、という可能性はないだろうか。

キュッ、キュッ、キュッ、という音が、耳障りに聞こえてくる。
病院内を掃除している職員さんが歩くときに、キュッ、キュッ、キュッと音がする。
ピカピカの床と職員さんの上履き、歩くときに擦れて、キュッという音になるのだ。
たったこけれだけの音が、不快に感じてしまう、ボクは、ちょっとどうかしている。
神経過敏だ、神経がささくれ立っているのだ、まったくどうしようもない情けない男。

午後3時30分になって、ようやく、ボクの名前を、丁寧に、さん付けで呼んでくれた。
元気はなくても、不自然な顔でも、不機嫌な顔はしないように、少しぎこちないけれど。
微熱が発生してから、これで3回目の診察、そして初めての女性医師だった。
いつもと同じように、血圧測定、目を見て、喉を見て、首のリンパを押してみて
聴診器を胸と背中に合わせて、そして、いつもと同じ質問を受けることになる。
海外旅行、できもの、湿疹、ペット、家族に異変はあるか、家族に病気はあるか。

あきらかに、あきらかに、女性医師は困惑している表情が読み取れる。
説明する言葉が見つからない、何かを探しているようだ。
ボクは、昨年の元旦の骨折、プレート、座骨神経痛、左足曲がらなくなったこと
そして、微熱が発生したことを、出来る限り、分かり易く順序立てて説明してみた。
つまり、微熱の原因は、左足、左足のプレートに何かあるのではないかと話した。

女性医師は、そんな1年7ヶ月前のことがねぇ〜と言って不自然な笑みをする。
つまり、微熱と脚は、関係ないでしょう、と言っているように、僕には感じた。
それでは、原因が判明しないのなら、他の病院で精密検査をしたいのですが・・・・・

すると、女性医師は予想外のことを言い出した。
だったら、一度、脚の手術した病院へ行かれたら、どうですか?
(心の声/えっ! いったいどういうことなんだろう?)
脚が原因とは考えられないのに、八千代まで90分かけて行っても意味ないですよねぇ!

気まずそうな表情をした女性医師
じゃあ、他の総合病院へ行きますか? どこの病院でも良いですから。
(心の声/なんだかなぁ・・・・・・)
その病院は、自分で考えて、自分で探して、行けばいいのですか?

いえ、こちらで紹介状を書きますから・・・・・・じゃあ、紹介状を書いて下さい!
すると女性医師は、右手で後頭部の髪を下から上に、むしゃむしゃと、かき乱している。
数秒のあいだ沈黙した、そして女性医師は、こう切り出した。
1週間後に、もう1度来れますか?・・・・・それは出来ますけど(心の声、なんだぁ?)

では、1週間分の抗生物質を出しておきます、それでも微熱が続いていたら
病院の紹介状を出しますから!・・・・・・・・そうですか、分かりました。

(心の声)
あの女性医師の対応は、何かおかしい、医師と患者の意思疎通が、できていない。
結局は、紹介状を出すのが、嫌なのか、面倒なのか、というようにしか思えない。
ボクのこと、つまり患者さんより、自分の都合に、ことを運びたい、ということだろう。

7月17日、52歳の誕生日は、病院でガックリして、帰宅してグッタリした。
誕生日のケーキも食べたくない、食べられない、ただ1人で横になりたいだけだ。
そして、グッタリした不快感の20%は、あの女性医師に対して向けられている。
いや違う、自分がしっかりしなくてはいけない、自分の意志を曲げてはいけない。
あと2日間だけ我慢して、2日間だけ抗生物質を飲んでみて、改善されなければ
もう1度、病院へ行って、何としても、大学病院への紹介状を書いてもらおう。
ボクはベットに横たわる、鉛の身体は、重力を真下に押し下げていて、
微動だにしないけれど、心は、お茶の水の大学病院へ、真っ直ぐに動き出していた。

人生はキミ自身が決意し、貫くしかないんだよ。
岡本太郎(芸術家、1911〜1996)

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