終戦のエンペラー 岡本嗣郎 読書感想記

追憶(沢田研二)、ひとりぼっちのメリー(アート・ガーファンクル)
よそゆき顔で(荒井由美)、タイム・イン・ア・ボトル(ジム・クロウチ)
あなたがここにいてほしい(ピンク・フロイド)、純愛(片平なぎさ)


たとえば、悲しいときには悲しいと感じる歌が聴きたくなる(ときがある)。
心がブルーなときには、真っ白にキラキラと輝く世界より、むしろ濃紺の
キャンパスに身を沈めたほうがしっとりと馴染んできて落ち着いてくる。

このように人間というのは、ある種の矛盾によって成立している。自分
だけの色を発揮したい気持ちと同時に、自分のカラーを出したくない
目立ちたくない、という異なる思想を抱えているのだが、それを指して
矛盾ではないかと批判すべきではない。そもそもが思想と思考ではない。
もちろん宗教でもない。それは、首から上だけの一部分で考えること
ではなく、身体の全部が本能的に感じること。つまり、生存本能である。

大海原を大群で回遊するイワシは、自己主張(カラー)により子孫を繋い
でいくし、個性を消去(集団行動)することにより外敵から防御している。

サンタナの「僕のリズムを聞いとくれ」のように、自他ともに誇れるなら
「ボクだけの色を見て欲しい」と懇願するだろう。しかし、恰好悪いこと、
情けないこと(たとえば怪我とか病気など)は、決して見てほしくない。
目立ちたくない、自分の色を消したい。だけど、ここでは色を消せない。

そういうときには、自分の色が目立たないところ(場所)に行くしかない。
同じ色の場所を求める、それが防衛本能である。そこに行けばチカラ
を入れなくても、なんの努力しなくても自然と混ざり合って溶け合う。
そのときの状況に応じて、居心地のいい場所を求めて移動して行くのだ。

イワシのように大群で泳げなくなった、心に傷を負った平目(ひらめ)が、
暗い海底にどんよりと沈んでいく。そして悲しみの地底色に同化(保護色)
して、ひっそりとしたエラ呼吸をする。突発的な転倒により、泳げなくなった
50歳の平目が沈んでいったところにあった(見えた)のが歴史と戦争だった。

最初はそんな動機(同化志向)だったから、精神論として決して褒められる
ものではない。ただあえて自己弁論をするならば、または、本音を言わして
もらうならば、ダイエット目的に走りだしたランナーがサブスリーを目指した
ように、大概はそんなものだろうと思うし少なくてもボクの場合はそうだった。

「あぁ〜そうか、そういうことだったのか」。実際に海底に沈んでみたら、それ
までにボクがイメージしていたこと(歴史と戦争)とは大きくかけ離れていた。
イワシの大群の中に混じって皇居のまわりをぐるぐると回遊していたときには
陽光の差し込む紺碧の海水と集団しか見ていなかった。そんなときに、陽の
届かない暗い海底に思いを寄せようなどとは考えなかった。

歴史と戦争を学びだしてから、ボクの内側にある種の変化が起こってきた。
無造作に放り出していたシャツを針金ハンガーに掛けたら、しわになっていた
後ろめたさがすっ〜と伸びたように、潜在的に歪んでいた精神が引っ張られて
本来の形に矯正された。この暗い海底から上部を見上げてみると、いままでの
逃避的な自分の姿に否応なしに気づく。大海原を回遊しながらも、海底のことを
本当は恐れていたし、たしかに、たしかに、ボクは避けていた。

海には必ず海底があること。不安定な自分を見出すこと。世界の海は国境を
越えて繋がっていること。すべての過去(歴史)が現在に繋がっていること。
過去からのバトンをしっかりと受け取ること、そしてバトンを引き渡すこと。
これが歴史を学ぶ本質だと、53歳が目前に迫ったボクは思うのだ。

「七の力を与えられている人が精いっぱい励んで八点を取った。
十の力を与えられている人が九点を取った。人間の目には
九点の方が上でも、神様の目には八点の方がずっと上です」

「お前の戦争に関する意見はまったく正しい。戦争には何の
いい訳も成り立たない。戦った双方の国民とも戦争を望んで
いない。国民を戦争に巻き込むのは、いつも思索によって
問題を解決することを怠った自分勝手な指導者たちだ。
私はこのことを今度の戦争でたくさん学んだ。
きょうまで私はルーズベルト大統領がアメリカ国民を戦争に
巻き込まない努力した行動をひとつも見出すことができない。
そうではなくて逆にあらゆる施策がまっすぐ戦争の向けて
リードされた。(略)
今日では軍事情勢に新しい要素が加わった。科学が人間の
進歩を追い越し、文明を絶滅させる手段を可能にした。
このことは戦争それ事態を避けることが、文明の絶滅を防ぐ
唯一の解決策であることを示している。」

終戦のエンペラー 岡本嗣郎 一部抜粋

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