二日酔いの朝に、天ぷら油の匂いが鼻孔を刺したように

立ちっぱなしの15分が経過すると、心配していた懸念の左脚が張ってきた。
或いはそういう気がしただけ、かもしれない。かもなんばん(南蛮)のように。
とにかくそのときのボクは、待ちに待った24年ぶりのローリングストーンズと
ミックジャガーを、心の底から純粋に楽しんでいるとは言えなかった。
次第にスピードが加速していく5万人が乗り込んだ巨大なバスに、ボクは乗り
遅れる。立ち上がる、そして、ときどき座る。そしてまた立ち会がり、また座る。


そのときに、ふと思い出した。それは最近になって自分が心がけていることだ。
他人の視線とか、自分がどう思われるとか、そういうことをイチイチ気にするのは
馬鹿らしいので止めよう。東京ドーム5万カンの1つ、ボクはかんぴょう巻きなんだ。
立っていようと座っていようと、かんぴょう巻が曲がっていようと腐っていようと、
だれもそんなことに興味も関心もない。アジの開きのように、ボクは開きなおる。
座りたければ座ればいいじゃないか。それにそもそも椅子というのは、座るために
存在するのだ。座らない椅子なら、座れる空気椅子の方が、まだ実用的なのだ。
座らない椅子なんて、まさしく絵に描いた椅子なのだ。ごめん、餅だった。

人生は自分の好きなように生きる。ラーメンにする、それとも、つけ麺にする?
もうそんなことで迷うのは止めようと思った。ボクは、迷わず座席に座った。
そのとき、アッと思った。足元の床が、ドカンドカンと激しく揺れるているのだ。
立っているときは少しも感じないのに、こうやって座ってみると、嫌というほどの
震動が、まるで教師びんびん物語のように下腹にビンビンに感じてくるのだ。
悩み事を隠すの案外へただね!最初はそう思ったのだが、そうではなかった。
不二家ネクターのピーチ缶のように、そんなに甘っちょろくはなかったのだ。
ドスンドスン〜ズンズン〜震動は座っているボクを激しく罵(ののし)ったのだ。
”なにやってんだ、何しに来たんだ、そこの親爺さん!しけたツラしやがって!”

まったくいい歳して大人げないのだが、二日酔いの朝に天ぷら油の匂いが鼻孔
を刺したように、そのときボクは、思わずムカッ〜ムカッ〜ときたのだ。
「そういう言い方はないじゃない?しけた煎餅のように、なにも好きでしけた顔を
してる訳じゃないんだって、ひとには分からないだろうけど左脚の調子がねぇ...」
東京ドームに来ているのに、ストーンズなのに、ボクは何をいじけているのだろう。
こんなことじゃダメなんだ。激安ヒラキの靴のように、もっと大胆にヒラキ直るのだ。
そうやって考えていたら、ある素晴らしいアイデアが、ぱっと浮かんできた.....。

まずはとにかく始めること。どのアイデアが最終的に実を結んで、
どのアイデアが実を結ばないか、確かめる方法なんてないんだから。
できるかぎりいろんなことをとにかくやってみること。
そうすれば、そのアイデアがまた別のアイデアを引き寄せる。
何かをやってみて、それがろくでもないアイデアだとわかったとき、
きみはもとの場所に戻ることは絶対にない。
必ず、何かを学ぶからだ。学ぶべきことが何もなかった場合は、
その前にしていたことに高い価値をおくべきだってこと。
そういう意味で僕は、試してみることに失敗はない、
というのは真実だと思っている。
デイル・ドーテン(実業家・コラムニスト、自己啓発書作家、1950〜)
『仕事は楽しいかね?』


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