興奮した馬のように口を開けてバカ笑いする女子高生の集団は、とてもうるさい。
やたらと騒がしい。何がそんなに可笑しいのだ。ただ鉛筆が転がっただけなのに。

しかし同時に、反対のことを考える。そういう感情の起伏が、私は羨ましいのだ。
頭をペコペコ下げているうちに、肩に乗ったものが加算されるたびに、年齢を重
ねるたびに、私の感性の塊は少しづつ削り取られる。波打ち際の岸壁のように。
だから眉間にしわを寄せて、ももいろクローバーZは下らないと言ってはいけない。
少なくても、キャンディーズのコンサートに行ったことがある人間としては。

37年前のコンサートのように、わたしは身体がフワフワして、地上から2センチ
浮き上がっていた。その理由は、GWの初日というだけではない。
短い首を伸ばして、長くして、待ちに待った舞台「命・生きる力」の日だった。

ゴールデンウィーク(GW)は、わたしのゴールデンルール(黄金律)と無関係だ。
ニワトリのように毎朝4時に起きて、ストレッチと筋トレ、ランニングをするのが、
わたしのゴールデンルール。朝食後に、前夜に放送された「手話ニュース845」の
音声を消して繰り返して3回見る。ゴールデンルール(黄金律)は自分との約束。
できることはやる。できないことはしない。お楽しみの舞台の前は特に念入りに。
旅行に出発する前に、お正月の前に、気合いを入れて掃除をするように。


わたしは、自宅近くの停留所から京成バスに乗った。このバスに乗ったら、葛飾
シンフォニーヒルズに到着するはずだった。これが大きな間違いだった。それでも
わたしは特に慌てない。こういうことは、私の人生に頻発することだから。
(原因は準備不足である) わたしの乗ったバスは
亀有行きではなく、市川駅行き
だったために四ツ木駅前で降りた。わたしは、何一つ不満を口にすることなく、口笛
を吹いて浮かれる訳でもなく、落胆するでもなく、おまけに自己反省することもなく、
京成電車に乗り換えた。そして2つ目の京成青砥駅で、わたしは下車した。

方向音痴コンテストが開催されたら、私はかなりいいところまで行く自信がある。
しかし、その実力を発揮する必要は全くなかった。青砥駅の改札口を出てから、
現地までを案内する人が、「命・生きる力」のチラシを持って等間隔で立っていた。

その案内する人の中に、耳に補聴器を付けている、メガネの奥の瞳がキラキラと
輝いている20代の男性がいた。わたしは男性に向かって、右手を拳にして左腕を
トントンと2回続けて叩いた(ご苦労様です)。男性の表情は、一瞬で変わった。
五月晴れの笑顔になった男性は、懸賞金を受け取るお相撲さんのように素敵な
手刀をきってくれた(ありがとう)。いま考えると、この辺りから、わたしの涙腺は
パンツのゴムが伸びたように、だらしなく緩み始めていたのだろう。

舞台が始まると、わたしは後悔の念が沸き起こった。私は携帯すべきだった。
普段から持ち歩かないハンカチ、ポケットティッシュ、さらに言えば、水分吸収性
に優れたパイル地のタオルを、わたしは持ってくるべきだったのだ。
(後悔すべきは、その原因は、いつものように、やはり準備不足)

舞台「命・生きる力」についての内容や感想について、わたしは語らない。
私のド下手な文章では、この舞台の素晴らしさを、十分に表現できないからだ。

ただ1つ、わたしは、わたしの個人的私見を書き記したい。
それは、この舞台に取り入れたユニバーサルデザイン(UD)について。
簡単に言うと(簡単に言うべきではないが)、障害のある人と、障害のない人が、
一緒に観劇を楽しめるシステムだ。本公演の出演者を含めて、観劇に来られた
沢山の方には、目の見えない人、耳の聞こえない人、車いすの人など、障害の
ある人が沢山お見えになっていた。また、ろう学校、盲学校の子どもたち300人
が招待された。その子供たちは舞台の前列の方で観劇していた。楽しそうだった。

そこには伸びやかな表情があった。柔らかくて、気兼ねのない、弾けるような自然
の笑顔があった。子どもたち、大人たち、そこにいるだれもが、自宅にいるような、
気の合う友達といるような、安心した笑顔があった。この笑顔の理由は、この舞台
のための環境としてのユニバーサルデザインがあり、その為の尽力してきた人の
気持ちがあり、人と人との相互理解があるからだと、わたしは思った。

2015年4月29日 かつしかシンフォニーヒルズ モーツアルトホール
午後2時〜4時 舞台「命・生きる力」 ありがとう!

(笑顔は)元手が要らない。しかも、利益は莫大。
与えても減らず、与えられた者は豊かになる。
一瞬間見せれば、その記憶は永久に続く。
どんな金持ちも、これなしでは暮らせない。
どんな貧乏人も、これによって豊かになる。
(笑顔は)家庭に幸福を、
商売に善意をもたらす。

(笑顔は)友情の合い言葉。
(笑顔は)疲れた者にとっては休養、失意の人にとっては光明、
悲しむ者にとっては太陽、悩める者にとっては自然の解毒剤となる。
(笑顔は)買うことも、強要することも、借りることも、盗むこともできない。
無償で与えて初めて値打ちが出る。
デール・カーネギー(20世紀前半の米国の自己啓発権威・講演家・著述家、1888〜1955)
『人を動かす』−クリスマスの笑顔

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