KAZUの完全復活を目指して

平成23年1月1日元旦の午前1時 年越しJOGの途中で転倒して大怪我をした。 大腿部と手首の骨折〜救急車の搬送〜2回の入院と手術を経て2月9日に退院。 そして退院後のリハビリ通院は79回をもって、平成23年6月29日に終了した。 さぁこれから、ここから、どこまで出来るのか、本当に復活(完全)出来るのか? 本気でヤルのか、情熱を注げるのか、そして過去を超えられるのか? 質問と疑問に対して、正々堂々と、決して逃げずに、答えを出してみよう。 こういう人生を、こういう生き方を、思い切り楽しんでみよう。 KAZUさんよ、タイトルに負けるなよ!

2019年06月

13時予備校の恋(25)

13時予備校の恋(25

 

「それ、さっき話したよね」彼女は渋谷区松濤の子犬み
たいにクスッと笑った。上品で可愛らしい笑い方だった。
勿論、子犬なんかより彼女は断然にチャーミングだ。

 

貴方は緊張しているの?やっぱりそうなのね。でも良いわ。

そういうところイヤじゃないから。試験が意外と簡単だった

時に浮かべる安堵の色を彼女は瞳の奥にチラッと浮かべた。

半年前からお互いを知っている。二人は同じ教室なので、

名前と顔と声、およその学力は分かっている。しかしそれ

は他の浪人生と同じであり、ただそれだけのことだった。

 

二人は話をしたことがなかった。その二人は手を伸ばせば

触れる距離で向き合い、見つめ合った。ガラにもなく私は

緊張したが、先生を前にしたときの嫌な緊張ではなかった。

「それで」彼女は進路指導の教師のような顔で切り出した。
「どんな感じなの、どういう気持ち?」高温サウナのよう
に熱のこもった声が、わたしの体温を押し上げる。

ちょっと待ってくれ。前から君を気にかけていたと白状
しろとでも言うか?わたしが困惑と動揺の表情を浮かべる

と、彼女は直ぐに察して女子高校生のように短く翻訳した。
「あの〜、志望校とか、そういう進路のことだけど」

 

それで少し安心したが、それはそれで答えにくい質問だ。
歌舞伎町で知り合った女性は「俺?青学、週末は鵠沼で
波乗りだよ!」サラリと言えるが、同じ予備校だから戯言
は通用しない。嘘は得意だが、真実は苦手な小心男子。

 

清廉潔白な人間を装い、わたしは生真面目に答えようとした。
「俺は日大一高、日大の附属校だよ。一年間浪人をして日大

以下(レベル)には行けない。最低でも日大、最高は東大」

すぐにボロが出る。やはり、真面目な話は長続きがしなかった。

13時予備校の恋(24)

13時予備校の恋(24

 

喧噪から避難するように、世間から逃避するように、
最初に目に入った喫茶店に雪崩れ込むように入った。

そこが珈琲館か、ルノアールか、どこの喫茶店か忘れて

しまったが、どちらにしてもスターバックスは日本に進

出していなかったし、どちらにしても、そこは大した喫
茶店ではなく、そこは大した問題ではなかった。

 

代わり映えのしない店構えのドアを開けると、頭の上で

ガランガランと薄気味悪い鐘の音が鳴る。店内へ入ると

暇そうな顔をした枯れ木みたいに痩せた女性店員は、喉

の奥からボソボソと何かを言ってから右手を奥へ向けた。

心の中では面倒くさいと思いながら「いらっしゃいませ」
もしくは「いらっしゃらないで」と言ったのだろう。

 

一番奥の席の中年男と眉間に皺を寄せて煙草をふかした
八代亜紀に似た中年女がこちらをじろり見て、お前たち

はこっちへ来るなよ!という拒絶の表情を浮かべる。

 

私達は歩道側のテーブル席に座った。テーブルは白、椅

子は赤、彼女のバッグと唇は更に燃えるように赤かった。

 

彼女はアイスティー、わたしはオレンジジュース、二人

は向かい合って座り、お互いの顔を見つめた。まるで、

目の前の相手が間違いないか確認するかのように。

わたしは「買物は」と切り出してから、言わなければ良

かったと後悔した。言い訳がましく「別に買物はしな

くても」と言ったときに、彼女は素早く口をはさんだ。

 

「それ、さっき話したよね」彼女は渋谷区松濤の子犬み
たいにクスッと笑った。上品で可愛らしい笑い方だった。
勿論、子犬なんかより彼女は断然にチャーミングだ。

13時予備校の恋(23)

13時予備校の恋(23

 

わたしは急に切なくなる。まるで、楽しみにしてい
た連続ドラマが録画切れだったときの気分だった。

今年の残暑は短い。そしてまた秋も短い。冬は駆け足
でやってくる。おそらく恐ろしく寒い冬になるだろう。

2回目の大学受験は、あっという間にやってくるのだ。

 

わたしたちは横に並んで歩こうとした。しかし、初対
面の男女の二人三脚みたいに上手くいかなかった。

駅前の雑踏をぎこちなく歩きながら、二人の肩が僅かに

触れる。そのたびにお互いの身体はキュッと収縮する。

彼女は大胆だけど純情、わたしは軽薄だけど純情だった。

そして夕刻の高田馬場は暇過ぎる人間が多過ぎたのだ。

わたしは、まるで雲の上を歩いているようなフワフワし

た不思議な感覚だった。そして何より不思議なのは教室

で見ていた(5m位離れた距離)、今まで話さなった彼女

と、二人で歩いているという現実そのものだった。

わたしは、わたしの少し後を歩く彼女を何度も振り返り
いつもよりも意識的にゆっくりと歩いた。ここで彼女を

見失ったら、もう二度と会えないような気がしたのだ。

突然の恋にうろたえるゾウガメになった気分だった。

喧噪から避難するように、世間から逃避するように、
最初に目に入った喫茶店に雪崩れ込むように入った。

そこが珈琲館か、ルノアールか、どこの喫茶店か忘れて

しまったが、どちらにしてもスターバックスは日本に進

出していなかったし、どちらにしても、そこは大した喫
茶店ではなく、そこは大した問題ではなかった。

13時予備校の恋(22)

13時予備校の恋(22

 

心と身体はブラックホールに吸い込まれるように一
気に持っていかれそうだった。それは心地よかった。
それでも良い。いや、それが良いと思った。


その一方で何かがおかしい、何かが違うとも感じた。

 

わたしから誘いだした時に答える、彼女の言い草な
のだ。間違いなく、誘ったのは彼女なのに。


私はそれでも良かった。不満はない。これから悩み

多き浪人生の新しい恋が始まろうとしていた。そん

なときに、そんなことはどうでも良いことだった。

「じゃあ行こうか(喫茶店)」と促すと、彼女は分

かったわ!という顔で頷いた。二人は歩き出した。


高田馬場の西友から喫茶店までが、わたしと彼女が初
めて一緒に歩いた道だった。


夕方の粘り強い太陽は、建物の隙間を見つけ出しては
歩道を歩く思慮の浅い人、空腹な人、動揺が隠せない

若者たちに、眩しい西日を照射して大いに喜んでいた。

しかし、いくら太陽が頑張ったところで残暑は残暑、

回転寿司は回転寿司だ。サーモンとマグロが違うよ

うに、あるいは急須で淹れた2回目のお茶のように、
秋の浸蝕が開始した残暑は本物の夏とは言えない。

わたしは急に切なくなる。まるで、楽しみにしてい
た連続ドラマが録画切れだったときの気分だった。

今年の残暑は短い。そしてまた秋も短い。冬は駆け足
でやってくる。おそらく恐ろしく寒い冬になるだろう。

2回目の大学受験は、あっという間にやってくるのだ。

13時予備校の恋(21)

13時予備校の恋(21

 

わたしの目の中に、彼女の探しているものが、本当
にあるのか、ないのかを確かめている様子だった。
さながら「わたしの御眼鏡にかなうかどうか、思案
中よ!」といったところか。


わたしは、彼女の次の言葉を待っていたが、昭和の
アイドル歌手みたいに、おざなりの小さな微笑みを
浮かべるだけだった。

 

甘くて無口なシュクリームみたいに、彼女は何も言
わないまま、数秒間の間があった。私はドキドキして
ジリジリした。試験開始の声を待っているように。

わたしは先に根負けする。「では、ど、どこかにお茶
飲みに行こうか?」喉の奥の方から懸命に言葉を絞り
だした。頼りなくて情けなくて女々しい声だった。

それでも彼女はすぐに反応する。「そうね!」高級な
真珠みたいに、瞳をキラリと一瞬だけ輝かせた。

いま、あなたは緊張して、それを隠そうとしている。
いいわ、あなたの動揺に気が付かない振りをしてあ
げるわ!という含んだ笑いをしながら「そうね、そ
れでもいいわ」赤い唇は、わたしに囁きかけた。

いままで話をしなかった彼女と、こうしてほとんど
初めて、まともに会話をした。彼女の魅力はいつも
通りだったが、わたしはいつも通りにヘタレだった。

 

心と身体はブラックホールに吸い込まれるように一
気に持っていかれそうだった。それは心地よかった。
それでも良い。いや、それが良いと思った。

その一方で何かがおかしい、何かが違うとも感じた。

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