2017.3.18(土)総武線各駅停車 千葉行き

立ち上がった男は、ドライアイスのように冷ややか、攻撃的
な目で、まるで親の仇のように、わたしを睨(にら)みつけた。
もちろん、わたしは、その男の親とは何の面識もないのだが..。

そして男は、わたしに向かって、大股で、2歩踏み出した。

この男は一体何に腹を立てているのだろう。私は、混乱した。
とにかくここは、お互いに冷静になり、平和的解決のために、
胸襟(きょうきん)を開いて、話し合うべきだ。

ただお友達になるには、ハードルは高そうだった。男の短距離
ミサイルは、すでにわたしに向かって発射の秒読み段階だった。
どちらにしろ、スキップしたくなる、心が躍る状況ではなかった。

その一方で、そのときわたしは、別の感情が発生した。縦揺れ
のように下から身体を突き動かす、心地よい刺激を感じていた。

頭のネジが数本、または全部が外れてしまった人間と、トラブル
になるなんて、まっぴらごめんだった。ただ、男がいきなり先制
攻撃を仕掛けた場合は、お話しは違ってくる。個人的な緊急災害
時の対応と、その後のストーリーの再構築は、差し迫った喫緊の
問題だった。その問題が、私の心拍数を急速に押し上げていた。

日本国憲法の拡大解釈によれば、自分の身を守る為の自衛行動
は許される。もちろん、あるポイントを超えないところまでだが.....。

最初の一発が、右か左かは分からない。分かるわけがなかった。
ただそれを冷静に見極める。最初のパンチさえ、外せばいいのだ。
あとは体重を乗せた、優しさと無情さと、ひとを外見で判断しては
いけないという教訓を、たっぷりと注ぎ込んだ右ストレートをたった
1発打つだけで、杞憂や憂いや不安の全部が消滅するはずだった。

思わぬときに、思わぬ場所で、ボクシングの実践練習が始まろうと
していた。馴染みのキャバ嬢のように、わたしが相手を指名した訳
ではない。向こうから、練習相手として名乗りを上げてきたのだ。

不届き者に正義の鉄槌を。総武線の平和を善良市民が取り戻す。
わたしには大義名文があった。かなり強引だったかもしれないが。
(さらに、ジムの会長に叱られるのも間違いない)

 いまここで、わたしは笑ってはいけない。笑顔を抑えるために
私は真剣に、顔面の筋肉を意識的に硬直させる努力をしていた。

ところが、男のとった行動は....わたしの想定外だった。

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