13時予備校の恋(24

 

喧噪から避難するように、世間から逃避するように、
最初に目に入った喫茶店に雪崩れ込むように入った。

そこが珈琲館か、ルノアールか、どこの喫茶店か忘れて

しまったが、どちらにしてもスターバックスは日本に進

出していなかったし、どちらにしても、そこは大した喫
茶店ではなく、そこは大した問題ではなかった。

 

代わり映えのしない店構えのドアを開けると、頭の上で

ガランガランと薄気味悪い鐘の音が鳴る。店内へ入ると

暇そうな顔をした枯れ木みたいに痩せた女性店員は、喉

の奥からボソボソと何かを言ってから右手を奥へ向けた。

心の中では面倒くさいと思いながら「いらっしゃいませ」
もしくは「いらっしゃらないで」と言ったのだろう。

 

一番奥の席の中年男と眉間に皺を寄せて煙草をふかした
八代亜紀に似た中年女がこちらをじろり見て、お前たち

はこっちへ来るなよ!という拒絶の表情を浮かべる。

 

私達は歩道側のテーブル席に座った。テーブルは白、椅

子は赤、彼女のバッグと唇は更に燃えるように赤かった。

 

彼女はアイスティー、わたしはオレンジジュース、二人

は向かい合って座り、お互いの顔を見つめた。まるで、

目の前の相手が間違いないか確認するかのように。

わたしは「買物は」と切り出してから、言わなければ良

かったと後悔した。言い訳がましく「別に買物はしな

くても」と言ったときに、彼女は素早く口をはさんだ。

 

「それ、さっき話したよね」彼女は渋谷区松濤の子犬み
たいにクスッと笑った。上品で可愛らしい笑い方だった。
勿論、子犬なんかより彼女は断然にチャーミングだ。