13時予備校の恋(26

 

清廉潔白な人間を装い、わたしは生真面目に答えようとした。
「俺は日大一高、日大の附属校だよ。一年間浪人をして日大

以下(レベル)には行けない。最低でも日大、最高は東大」

すぐにボロが出る。やはり、真面目な話は長続きがしなかった。

 

彼女は少しだけ紅潮して少しだけ微笑んだ。「東大は違うよね!」
子どもに諭すような言い方だった。少し呆れたシニカルな笑顔を
浮かべた。それでもそれが笑顔であることに間違いはないのだ。

 

「最高はどこ(大学)なの?もう〜真面目に答えてよ!!」
彼女の少し怒った顔を見て、わたしの心は軽快に踊り始める。

 

その時、奥の八代亜紀似の女性がガハッハッと馬鹿笑いをして
金歯を光らせた。有線「ミスターサマータイム」が流れてきた。

 

昨年の夏、新小岩のディスコで初めてチークダンスを踊った

曲が「ミスターサマータイム」、相手は地元の短大生だった。
わたしは慌てて、記憶に蓋をして彼女から遠くへ押しやる。

 

「千葉のトウダイだよ」わたしはクールに言った。「千葉に

東京大学あるの?」不思議そうに彼女は尋ねる。予想通り
の反応だった。私は、にやけた笑いを何とか我慢して言った。
「最高なのは千葉のトウダイ。船を照らす灯台(トウダイ)」

彼女が呆れたり怒ったり笑ったりを繰り返す度に、楽しく

なり、嬉しくなり、彼女との距離がどんどん近づいて、彼女

に対する気持ち、焦がれる想いはどんどん膨らんでいった。

 

それからの二人は夢中になって話をした。まるで堰を切った
ように、半年間の空白を埋めるように、むさぼりあうように。

話の中身は勉強に関する真面目な話は少しで、大半は下らない、
どうでもいい話だった。つまり話なんか何でも良かったのだ。