13時予備校の恋(29

 

夕方、店内は倒産寸前のお店のように空気は沈んで

いたが私たちの気持ちはいやが上にも高揚していた。


枯れ木みたいな店員から、冷めた細い目をしたどう
しようもなく太った女性店員に入れ替わっていた。

足に巻き付いた鎖を引きずるような重い足取りで
冷めた目の店員はコップの水を2回入れに来た。

無料の水は2回で打ち止め、3回目はなかった。
ダイエット嫌いを分かり易い体型で表現した店員
はこちらをちらりと見て「あんたたち、いつまで

ここにいるつまりなのよ」心の中で連呼していた。

道路側へ目を向けると、いつのまにか夜の帳がおり
ていた。どちらかと言うまでもなく、男と女が歩み
寄る大人の時間帯に突入していた。

二人だけの2時間半は、アッという間に過ぎ去った。
空白の間を埋めようとする新人漫才師のように二人
は夢中になって突っ込みとぼけの掛け合いを続ける。

 

彼女の名前を最初に呼ぶ時は、意識と勇気を要する。
最後の方は当たり前のように、まるで10年前から
のように、わたしは「洋子!」と力強く呼んだ。

松田聖子が単なるアイドルではないように、洋子は
単なるクラスメートではないという気持ちを含ませ
た計画的、戦略的な「洋子」の呼び方だった。

「呼び捨て」は距離を近づける使い古された手法だ。
洋子はそれを受け入れた。わたしが洋子に「洋子!」
と呼びかけると洋子は嬉しそうな甘い顔になった。

チョコレートパフェを差し出された女子中学生のように。