13時予備校の恋(36)
「つまり、わたしは話の短くて簡単な女ではないの。
だって、わたしの話(説明、忠告?)は長いでしょう」
と言った洋子の表情は、高貴で優雅そうに見えた。
英国の競馬場の華やかな帽子を被った貴婦人のように。
美しく妖艶な女性がターゲット男性だけに魅せる微笑み。
洋子は、成熟した女性の自信と余裕を惜しみなく漂わせ
ながら、実力を誇示する微笑みをたっぷりと見せつけた。
品評会で金賞を獲得した真紅の薔薇を披露するように。
憎らしいけど美しい。憎らしいほど美しい。
自信の女性は、自信満々の真珠のように隠微に煌めいて
ただの傍観者まで魅了してしまうのだ。
「あなたは話の短い女(ナンパで付いていく)と付き
合った」サンバ好きの准教授のように洋子は情熱的に
言った。「わたしに言わせればそれは恋じゃないわ」
「恋、つまり本物の恋という意味だけど、異性として
単にお互いを求め合うだけではなく、お互いの人格の
衝突と融合を繰り返しながら、同時に高め合っていく」
「わたしもそう思う」とわたしは言った。「濃密な融合」
と言いたかったが、言わなかった。おそらく、洋子は
文学好きなのだ。言わんとしていることは理解できる。
たしかに、わたしは「本物の恋」とは無縁だった。
長い短いは別として吸った煙草は必ず捨てる。靴で踏み
潰すか、灰皿に水を浸すかの火遊び、水遊び、恋愛遊戯。
ささやかながら、反論もある。「本物の恋」って何だ?
「遊びの恋」のいったい何が悪い(問題)というのだ!
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