13時予備校の恋(37)
長い短いは別として吸った煙草は必ず捨てる。靴で踏み
潰すか、灰皿に水を浸すかの火遊び、水遊び、恋愛遊戯。
ささやかながら、反論もある。「本物の恋」って何だ?
「遊びの恋」のいったい何が悪い(問題)というのだ!
そのとき「我慢のときだ!」誰かの声が言った。
その声は、わたしがわたしに言った心の声だった。
結局のところ、わたしは反論しなかった。
洗濯板やボンレスハムを連想させる女性だったら惜しみ
なく雄弁に反論したが、洋子の美しさは問答無用だった。
男性は美しい女性から嫌われるリスクは冒さない。
洋子の好きなように話をさせておいた。当然だろう。
人は人の話しを聞くより、人に話すほうが好きなのだ。
「本物の恋は」と洋子は言った。「お互いの人格を刺激
して、お互いを同時に高め合うこと。わたしの創作民話
ではないのよ」とても調子が良さそうに見えた。
立ち上がりから連続三振を奪った投手のように。
「これは人類の歴史と進化が証明しているわ。
話の意味が分かるかな?(うん)分かるよね(うん)」
わたしは、ただ黙して頷いた。神妙な顔でありながら、
少しばかりの疲れを感じながら。
とにかく、洋子の話を聞かなければいけなかった。
日照り続きに苦悩する長老が正座をして、思いつめた
顔で神様のお告げに耳を澄ませるかのように。
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